学位商法
ディプロマミルによる教育汚染
教育が
汚染される!
学位商法の何が問題なのか?汚染される!
どんな危険性をはらんでいるのか?
これ以上被害を拡大させないために
何ができるのか―
日本における学位商法の
知られざる実態を明らかにする!
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[著]小島茂 [監] [価格]2,625 円(税込) [判型]A5判/240頁 [初版]2007/12/28 [ISBN]978-4-86167-209-5 |
■ 本書について
学位商法(ディプロマミル)は危険な香りのする魑魅魍魎とした闇の世界である。実体は営利団体であるにもかかわらず、米国大学を騙り、怪しげな学士、修士、博士、教授などの学位、称号を、教育を装いながら、あれこれ、手を使って高額で売りさばく。「ディプロマミル(Diploma Mills)」は「ディグリーミル(Degree Mills)」とも呼ばれ、日本では、「学位工場」や「学位販売業者」、あるいはその営業行為もふくめた「学位商法」などの訳語で最近ようやく注目され始めたばかりだが、米国では、十九世紀後半からの長い歴史を持ついわゆる"教育詐欺"で、近年、大きな社会問題としてクローズアップされている。
この米国発祥の学位商法は、一九九〇年代中頃のインターネットの登場とともにグローバル化し、勢力を一挙に拡大した。インターネット上で容易に作ることができ、収益が莫大でしかも自分の思想すら喧伝できるので、新規参入組が後を絶たない。
米国では一九八八年に、高等教育の専門家であるD・W・スチュワート氏とH・A・スピル氏によって、米国内におけるディプロマミルの実態を明らかにした『Diploma Mills − Degrees of Fraud』(American Council on Education)が出版され、二年後の一九九〇年に、日本でも、『学歴産業(ディプロマ・ミル)―学位の信用をいかに守るか』(玉川大学出版部)として日本語版が出版された。そのときの訳者解題で喜多村和之氏は、「ディプロマミル問題は、なにもアメリカだけの問題ではなく、資格主義社会、学歴主義社会に向かう傾向を持つ産業社会に共通する問題でもある。本書を日本にも生じうる未来先取りの問題を扱うものとして、翻訳、紹介を試みたゆえんである」と書いている。しかし、対岸の火事とみなして放置していたら、日本でもいつの間にか、教育から経営、医学、芸術、スポーツにいたるまであらゆる分野がディプロマミルによって浸食されていた。とくに、米国の大学では通用しない「学位」が日本の大学では公然と通用し、その数は増加の一途を辿った。
学位商法のさらに大きな問題は、ディプロマミル自体だけではなく、その受益者たる学位取得者たちによる一般の人々への詐欺行為とその弊害にある。一般の人々は怪しげな博士号を持つ医師、教授、経営者、カウンセラー、セラピスト、コンサルタントなどを通じていわば洗脳され、学位商法の餌食にされる。ディプロマミルが社会に跋扈することによって、人々の道徳観、倫理観、正義感が徐々に麻痺していく。
学位商法を問題視する人々に対して、名誉毀損、誹謗中傷、営業妨害などのクレームをつけ、批判封じをするディプロマミルもある。こうしたディプロマミルの脅迫を恐れて、インターネット上で学位商法を取り上げるサイトの多くが、匿名による運営で情報提供の役割に留まり、問題を追及するという姿勢は、最近まで見られなかった。
かくして「偽」が「真」を圧迫し、教育が汚染され、偽装事件が相次ぐ日本の?ニセ社会化?にいっそう拍軍がかかっている。多くの人々はそれに気づかず、長い間、国もマスコミも動こうとはしなかった。
こうした状況に危惧を抱いて、二〇〇三年に筆者は静岡県立大学のサイトの研究室のページで警告を発し、二〇〇四年にはメルマガ「学歴ネット」を創刊し、二〇〇五年にはブログ「学歴汚染」を開設し、米国発祥の学位商法の危険性やその弊害である学歴汚染について警鐘を鳴らし始めた。危惧を抱きながら沈黙を余儀なくされてきた人々は少なくなく、まもなく読者より懸念を共有するメールや励ましのメールが届くようになった。
■関心を持ってみると、この日本にも、非認定の学位の問題が非常に蔓延していることを実感いたします。
■問題の根源は、世間にはニセ学位があること、それを使い、子供をふくむ世間の人々を欺きながら、名誉を得、金儲けを図るカリスマや取り巻き連中がいるということであり、日本の社会でもニセ学位に関しては意識啓蒙がなされていかなければならないということだと思います。
■私は国立大学医学部に所属し悪性腫瘍の診療にあたっているものですが、詐欺まがいのニセ医学の蔓延に心を痛めております。まして、その権威付けにニセ学位が使われている現実を、とうてい許すことができません。
■米国の大学で死ぬ思いで頑張って学位を取ったものからすると、本学やその他日本各地に大勢いると思われるディプロマミルに対して、まったく許しがたい憤りの気持ちを抱いております。
■学歴汚染に対し、世を啓蒙し、これ以上被害を拡大させない処置が急務だと感じます。この問題に勇気を持って正面から立ち向かわれ、警鐘を鳴らされたのは世の幸運と思わずにいられません。
同時に、大手マスコミからもアプローチがあり、その結果、二〇〇五年五月には、NHKが『クローズアップ現代』で「追跡― 学位売買」と題して、米国の代表的ディプロマミルのひとつであるハミルトン大学を特集し、学位が売買できるという実態を世間に知らしめ、日本における学位商法報道の嚆矢となった。
二ヶ月後の七月には、日本テレビが『今日の出来事』という夜の報道番組で、パシフィック・ウエスタン大学の薬学博士号を使用する経営者と糖尿病の女子中学生が死亡した事件との関連を追求し、学位商法は決して米国だけの問題ではなく、日本でも身近な問題であることを報道した。
フジテレビは、二〇〇六年五月から学位商法の取材を続けていたが、その成果を同年十二月の特別報道番組『FNN特命取材班・報道A』で「告発― 学歴汚染」と題して放送した。番組ではクレイトン大学(Clayton University)を取り上げ、ルイジアナ州の私書箱がキャンパスだったという学位商法のカラクリを暴いた。翌日は、『FNNニュース』が、国公立大学や有名私立大学の教授ら十六名の不正学位使用を報じ、文部科学省(以下、文科省)から「問題」だというコメントを引き出した。
これと前後して、『産経新聞』(二〇〇七年一月二十二日)は、米国・日本における不正学位使用の現状を取り上げ、またユネスコによる、安全な大学を紹介する「ホワイトリスト」作成の方針を伝えた。『産経新聞』とフジテレビの報道を契機に、ラジオや日刊紙など、他のマスメディアも学位商法を取り上げた。こうしたマスコミ報道のなか、二〇〇七年二月、国会で初めて学位商法問題が取り上げられ、文科相から調査を行うという発言がなされた。これまでディプロマミルを放置してきた文科省の方針転換を促し、二〇〇七年七月、大学教員の海外の不正学位使用についての実態調査に結びついたのだった。
その後九月には、各新聞が文科省の実態調査に関して各大学の動きを報道するようになり、一見、人々の社会的関心も芽生えつつあるように見える。しかし現実は、学位商法が米国のように社会問題として取り上げられることもなく、いまだ多くの人々が「ディプロマミル」や「ディグリーミル」という言葉を聞いたこともないし理解もしていない。聞いたことがあっても、自分とは関係ない、身近な問題ではないと関心を持たない。
最近行った筆者の講義でも、初回に尋ねたところ、ほぼすべての受講生が「ディプロマミル」「学位工場」「学歴汚染」「学位商法」といった言葉を聞いたことがなかった。学生ばかりでなく、社会人聴講生も知らなかった。
なぜ知らないのか? 学位商法は被害者が出にくい詐欺で、従って社会問題や事件になりにくいという事情もあるだろう。大半の人々はマスコミによって社会問題や事件、現象の情報を得るので、社会的な問題や事件としてマスコミ報道で大きく扱われないと深く浸透しない。また、たとえ一、二社が取り上げても、マスコミ各社がこぞって参入し、報道を継続していかないとなかなか一般の人々の目に入らない。そもそもマスコミ関係者から私が受けるもっとも多い質問が、「ディプロマミルとは何のことですか?」「学位商法の何が一番問題なのですか?」という基本的なものが多く、マスコミ関係者の理解が高くないという問題もある。
その後、米国では二〇〇五年に、元FBI捜査官のA・エゼル氏と元FBI顧問のJ・ベアー氏により、『Degree Mills−The Billion-Dollar Industry That Has Sold Over a Million Fake Diplomas』(Prometheus Books)が出版された(邦訳はないが、タイトルを訳すると「ディグリーミル―百万の偽学位を販売した十億ドル産業」となる)。しかしながら、日本での学位商法を扱った書籍はまだ一冊も出ていなかった。ディプロマミルが何か知りたくて書店に行ってもそのテーマの本がなければ、関心をとどめておくことができないのも無理もない。つまり、日本で学位商法への関心や理解が広がらないのは書籍の不在とも関係がある。
一方、読者の関心や理解が薄いと本を出しても売れないので出版するところがない。この悪循環を打破すべく、筆者は二〇〇七年一月、日本における最初の学位商法の単行本となる『学歴汚染―日本型学位商法(ディプロマミル)の衝撃』(展望社)を上梓した。読者からは、「衝撃的な内容だった」「迫力があった」「希望と勇気が持てた」という好意的な評価を得たが、クレイトン大学日本校に焦点を当て、その攻防戦を時系列に綴ったものだったため、学位商法の定義、歴史、特徴、法律上の問題点、判定基準や日本における学位商法の全体的な動きや広がりを明らかにすることはかなわなかった。
そこで、本書では学位商法を概観するとともに、自分の体験や被害者とのやり取り、読者からの情報提供をふくめ、具体例を上げながら、学位商法とは何か、何が問題で、なぜ誰にとっても身近な問題であるのかを理解できるように心がけた。
本書は次のように構成されている。
第一章では、学位商法の定義、日米における歴史、その特殊性と問題点を取り上げる。
第二章では、学位商法の特徴を明らかにし、ディプロマミルの行動原理を探る。
第三章では、具体的な非認定校を通じて、日本における学位商法の現場を探る。
第四章では、学位商法のもっとも大きな問題である大学教授と博士号の関係を取り上げ、なぜ米国の大学で通用しない学位が日本の大学では通用しているのか、その要因を探る。
第五章では、学位商法の被害と弊害すなわち学歴汚染が、美容・ダイエット分野、芸術分野にまで広がっている事実を明らかにする。その毒牙は高齢者から子どもにまで及んでいる。
第六章では、日本のディプロマミルが引き起こした国際摩擦について、事例研究的に取り上げる。
第七章では、学位商法の対策として、国、マスコミ、大学、そして私たち一人ひとりがすべきこと、できることを具体的に提言する。
本書のタイトルは「学位商法」である。しかし、学位商法を悪徳商法のひとつとしての消費者問題に矮小化してしまうと、問題の本質を見誤りかねない。事の重大性から目をそらすことになる。ディプロマミルは教育の信用性、教育による人材しか資源のない日本にとっては、その根幹を揺らがせる国家的な問題である。
本書を読むことによって、一人でも多くの読者が学位商法についての知識を得て、事態の深刻性に気づき、問題解決のために、日本を守るために、自分に何ができるかを考えていただけるようになることを切に願う。
平成十九年十一月吉日
小島 茂
小島 茂
■ 目次
- 第一章 学位商法とは何か
- ディプロマミルの定義
- 非認定校とディプロマミル
- ディプロマミルの訳語
- 学位商法の歴史(1) ― 米国
- 学位商法の歴史(2) ― 日本
- 姿の見えない被害者と魔法の杖を悪用する受益者
- ディプロマミルの何が問題なのか
- 非認定校とディプロマミル
- 第二章 ディプロマミルの行動原理
- ディプロマミルの本質
- 大学のネーミング操作法(1) ― 紛らわしい大学名を使う
- 大学のネーミング操作法(2) ― 大統領や有名人の名前を冠する
- 大学のネーミング操作法(3) ― 国際性、時代性、格式を演出する
- 名門大学との関連付け
- 国際機関との関連付け
- 広告宣伝と祝賀イベント
- 有名人の利用
- 近親憎悪と相互扶助
- 時代の変革者という偽装
- 訴訟という名のブラフ
- 名称変更と詭弁
- ディプロマミルとカルトの共通点
- 大学のネーミング操作法(1) ― 紛らわしい大学名を使う
- 第三章 非認定校と学位商法の現場
- 学位商法と米国の大学を名乗る非認定校
- ヘーゲル国際大学―看護業界に浸透する宗教系非認定校
- 国際学士院大学―闇社会との繋がりの真偽
- パシフィックウエスタン大学―中小企業経営者に入り込む学位商法
- ホノルル大学―博士号を持つセラピストと疑問を抱いたクライアント
- クレイトン大学―人材派遣会社をスルーするディプロマミルの学位
- バークレー科学大学―怪しげな博士号を持つ健康番組の常連専門家
- イオンド大学―学位商法を巡る攻防戦
- ヘーゲル国際大学―看護業界に浸透する宗教系非認定校
- 第四章 大学教授と博士号の関係
- 最高府に求められる厳格な学位の取り扱い
- DM博士号を使用した教授を解雇する米国の大学
- 大切なのは最終学歴
- 摘発された韓国の大学教授
- 日本の文科系教授研究者と博士号
- 高学歴者は欧米を目指し、低学歴者は日本を目指す
- 日本の博士号vs 欧米の博士号
- 大学教授のDM学位使用の理由
- DM博士号使用の大学教授は確信犯か
- 文科省の海外不正学位実態調査と各大学のそれぞれの対応
- DM博士号を使用した教授を解雇する米国の大学
- 第五章 学位商法の被害と弊害〜学歴汚染の広がり
- 英語教育分野に巣くう学位商法
- 健康美容分野でも学歴汚染
- 芸術分野に広がる学歴汚染
- 学位商法の二次被害に晒される子どもと母親
- 落ちこぼれの若者を餌食にするディプロマミル
- 社員教育という名の学位商法
- 狙われる高齢者
- 健康美容分野でも学歴汚染
- 第六章 学位商法と国際摩擦〜提携疑惑と州法違反を巡って
- ポーランド国立ウッジ大学との学術提携を巡る国際摩擦
- イオンド大学の提訴威嚇と提訴断念通知
- イオンド大学によるウッジ大学への恫喝文書
- ハワイ州消費保護局によるイオンド大学訴訟とその行方
- 海外DM専門家の反応
- "Good Standing" から"Not Good Standing"へ降格
- マスコミはなぜ国際摩擦事件を報道しないのか
- イオンド大学の提訴威嚇と提訴断念通知
- 第七章 学位商法問題にどう対処すべきか
- 法的規制の強化と執行
- 法律の究極にあるのは道徳
- 政治家の決意
- 中央官庁の動き
- 学位商法とパブリシティ
- 学位商法と出版社の役割
- 公人としての大学人の矜持と覚悟
- 教育の効用―札幌学院大学
- 「学位商法と学歴汚染」講座(1)―社会人のレポート
- 「学位商法と学歴汚染」講座(2) ―学生のレポート
- 一人ひとりができること(1)―ディプロマミルと戦うためのネット武装
- 一人ひとりができること(2) ―ディプロマミルと戦うための啓蒙活動
- 法律の究極にあるのは道徳
- オレゴン州非認定校リスト
- 参考文献